ベルマークのない自由帳

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有益と無益の境界例

オートファジーから見る「食」

Nobel Prize Dialogue 2018で行われた大隅良典教授の講演、「オートファジー研究から食について考える」。
 
一見すると細胞レベルの出来事と私達の食事にはあまり関係がなさそうにも思えますが、講演は「食事」について考え直すきっかけを与えてくれる示唆に富んだ内容でした。
 
講演の内容から見えてきたものをまとめました。
 

オートファジーについて

まずは「オートファジー」について確認しておきます。
自食作用」とも呼ばれるオートファジーは、細胞が飢餓状態に陥った際に細胞内のタンパク質を分解してアミノ酸を生成、そのアミノ酸を材料として新たなエネルギー源となるタンパク質を合成する機構です。
 
細胞内に膜の欠片(隔離膜)が現れ、段々と伸びながら分解する物質(細胞質やミトコンドリア)を取り込みながらオートファゴソームというものが形成されます。
オートファゴソームが分解酵素を持ったリソソームと融合すると、内部に分解酵素が流れ込んで物質が分解され、アミノ酸が生成されます。
一連の流れは以下の通り。
 
飢餓状態→隔離膜の生成→オートファゴソームの形成→リソソームとの融合→細胞の分解→アミノ酸の生成→新たなタンパク質生成
 
分解までの過程を図解。 
講演の中で、いずれはオートファジーを操作することで「飢餓」「腫瘍の成長」「免疫」「鉄分のホメオスタシス」がある程度コントロール可能になる、というビジョンが印象的でした。
また、30年以上もオートファジー(正確には液胞)の研究をされている大隅教授ですが、光学顕微鏡で液胞を観察しては「液胞の美しさ」を賞賛していたとか。
 

オートファジーと「食」

細胞というミクロレベルで「食」というものを見つめてきた大隅教授。
生命の本質は「分解と合成」にあり、それを実現している生存のメカニズムこそ「食事」であるとのことでした。
 
「生命」は食事で摂取するものに依存しているのです。
わかりやすい例として「沖縄県の男性平均寿命」があります。
2000年頃までは平均寿命が全国でも上位で「長寿の県」とも呼ばれていました(女性は2005年まで1位)。
しかし、最新2015年の男性平均寿命が全国36位となり前回の30位から更に低下しました。
その背後にあると考えられているのが「食習慣の変化」です。
 
沖縄の食の変化
沖縄県ではアメリカ軍の占領に伴い肉の加工品が広まり、1960年頃から食の欧米化が始まったそうです。
食生活がそれまでの野菜を中心としたものから肉が中心になり、「摂取カロリーに占める脂肪の割合」が急増しました。
脂肪の摂取が多いと循環器系疾患のリスクが高まることが知られています。
沖縄でも心筋梗塞脳梗塞といった循環器系疾患が顕著に増加したという報告があります。
 
沖縄県民の平均寿命低下と食習慣の関係については以下の記事が詳しいです。

www.nhk.or.jp

 

まとめ

沖縄県の例から食事は生命に直結することがわかります。
このことを踏まえて、大隅教授は「分解と合成」の重要さを口にしていたのかと思います。
食事は単に「安い」とか「満足」といったもののために行うのではなく、生存を維持し、身体だけでなく「生命そのものを形づくる」メカニズムということです。
 
講演の最後に大隅教授は
 
「私たちは生きるために食べるのであって、食べるために生きているのではない」
 
とおっしゃっていました。
食事を楽しむ「娯楽的側面」を否定しているようにも聞こえますが、食事が本来持っている「機能的側面」を見失ってはいけない、という意味合いだと思いました。
 
食事を「分解と合成」のプロセスと捉えると、日常的な食事とオートファジーがフラクタルな関係にあると言えるのではないでしょうか。