ベルマークのない自由帳

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有益と無益の境界例

精神疾患を治すなら抗精神病薬より効果的な低炭水化物ダイエット!

執筆者:Georgia Ede MD
 
なんだか怪しげなタイトルですが、記事の要点は以下の3つです。
 
  1. 精神医学における栄養学的アプローチとして「ケトジェニックダイエット」が注目されている
  2. 投薬治療で改善が見られなかった患者がダイエットを実施したところ寛解した例がある
  3. 多大な副作用のある投薬治療より症状の改善だけでなく健康体にもなるダイエットのほうが好ましい
 
「ケトジェニックダイエットって?」「本当に効果があるの?」
と疑いの視線を向けたくなりますが、最新の国際栄養精神医学研究会(ISNPR)で発表された内容が元になっています。
 

 

(補足は私が加筆した用語の説明になります)
 

最新の研究報告と統合失調感情障害 

最先端の学術会議

今年の夏、私は幸運にも最先端の国際栄養精神医学研究会(ISNPR)の会議に参加しました。
この会議は精神疾患の治療において、栄養学的アプローチに可能性を見出している人たちによる刺激的で興味深いいものでした。
登壇者の大半は「オメガ3脂肪酸」、「マイクロバイオーム(※1)の研究」、「微量栄養素(※2)」、「地中海食ダイエット」に焦点を当てていました。
ブレークアウトセッションでは、「ケトジェニックダイエット(※3)」の潜在的な効果について発表しているセッションもいくつかありました。
ケトジェニックダイエットは、100年近くに渡りてんかんの治療に用いられてきた特別な低炭水化物ダイエットです。
また、様々な脳疾患の治療に有効であるという可能性も示しています。
 

精神疾患、気分、ダイエット

私が出席したある発表は、ハバード・マクレーン病院の精神科医クリス・パーマー博士(Chris Palmer)によるものでした。
パルマー博士は2人の統合失調感情障害(※4)の患者がケトジェニックダイエットを実践した例を話しました。
統合失調症は精神病的な症状を特徴としますが、統合失調感情障害を持つ人々は精神病と同時に重度の感情障害に見舞われます。
精神病の兆候にはパラノイア、幻聴、侵入思考(※5)、まとまりのない思考などがあります。
気分エピソード(※6)にはうつ病、多幸症、過敏症、怒りっぽい、自殺願望、気分変動などがあります。
15年以上のキャリアがある臨床精神科医として、統合失調感情障害という診断は人々にとって受け入れがたく、精神科医にとっても治療が極めて難しいと言うことができます。
もっとも強力な抗精神病薬気分安定薬であっても、十分な効果が認められない時があります。
また、薬物療法そのものが大きな副作用のリスクを伴います。
 
以下にパーマー博士の発表を要約しました。
詳細やパーマー博士の解説は、「統合失調症研究(Schizophrenia Research)」誌に載っています。
 
 

パーマー博士の発表 

ケース1:ある女性が発見した自然寛解

最初のストーリーは8年前に統合失調感情障害だと診断された31歳の女性の例です。
強力ながら重大な副作用があるため最終手段とされている抗精神病薬のクロザピンをふくめ、
12もの異なる治療法を試しても効果がありませんでした。
電気ショック療法も23回実施しましたが、重い症状による悩みは解決しませんでした。
ある時、彼女は体重を減らしたいと考えケトジェニックダイエットをはじめました。
ダイエットを初めて4週間後、悩みの一つであった侵入思考が解決し、体重も4.5kg減りました。
4ヶ月後には体重が13.5kg減り、臨床で用いる尺度であるPANSS(※7)のスコアが107から70まで下がりました。
 

ケース2:ある男性の回復

2つ目のストーリーは14年前に統合失調感情障害だと診断された33歳の男性の例です。
彼は長年に渡ってクロザピンを含む17の異なる治療法を試して、多少の改善は見られました。
体重が146kgあった彼は体重を減らすためにケトジェニックダイエットをはじめました。
すると、彼は3週間のうちに幻聴と侵入思考が劇的に減少し、気分や活力、集中力が改善したと報告しました。
1年間で体重は47kg減少しました。
ケトジェニックダイエット中、彼のPANSSのスコアは98から49まで下がりました。
日常的な機能や生活の質も劇的に改善し、自ら実家を出て大学に通い始め、交際相手も探し始めました。
 
興味深いことに、どちらのケースでもケトジェニックダイエットをやめてしまうと症状が悪化し、再開するとまた症状の改善が見られました。
これは症状がダイエット以外の要因によって改善したわけではないことを示唆しています。
 

食べ物 vs. 薬物

PANSSスコアの改善、大幅な体重の減少、生活の質の向上といった結果は本当に驚くべきものです。
これらの結果をもたらす精神医学的な薬物は存在しません。
私も抗精神病薬双極性障害や精神病を持つ人々の助けになることは経験的に知っています。
しかし、すべての抗精神病薬は副作用があり、中でも体重の増加がもっとも重大です。
 
すべての抗精神病薬(アリピプラゾール、ジプレキサリスパダールセロクエル、クロザピンなど)は、インスリンレベルを高め、インスリン抵抗性をもたらします。
インスリン抵抗性とは、ホルモンによって代謝機能が変化して炭水化物を分解するのが困難になった状態(耐糖障害)です。
時間がたつとインスリン抵抗性は体重の増加、2型糖尿病、心臓病、さらにアルツハイマー病を招く恐れがあります。
反対に、ケトジェニックダイエットは多くのポジティブな効果が期待できます。
インスリンレベルを低下させ、インスリンの機能を改善し、インスリン抵抗性とそれに関連する兆候を回復させます。
 

ケトジェニックダイエットとは何か?

ケトジェニックダイエットは超低炭水化物ダイエット(炭水化物の1日の上限が20g)で、他のダイエットよりかなり高脂肪です。
このダイエットはインスリンレベルを下げて安定化させ、脂肪燃焼を促進し、グルコースへのエネルギー依存度を低下させる効果があります。
脂肪がケトン体に分解されることで、脳細胞はエネルギーとしてグルコースの代わりにケトン体を使用します。
ケトン体はグルコースよりもクリーンで効率的なので、その結果として脳や身体の炎症や酸化を防ぐことができます。
 

ケトジェニックダイエットとその他の精神疾患

この夏の初め、私は「精神疾患のためのケトジェニックダイエット」という記事をPsychology Todayに寄稿しました。
内容は低炭水化物とケトジェニックダイエットが双極性障害自閉症統合失調症を含む精神疾患を持つ人々にどう影響するのかについての報告です。
その中には63年間も治療を続けながら精神病の症状に苦しんでいた女性が、低炭水化物ダイエットによって寛解する注目すべき話も含まれています。
 

薬を超えて

ほとんどの人は薬物療法以外の選択肢を考えません。
私たちは栄養学的アプローチのポテンシャルを精神病で苦しむ人々に気づいてほしいのです。
もしあなたが精神病に悩む人を知っている場合には、ぜひこの記事の内容をその人と共有してください。
 
あなた自身が気分障害や思考障害で苦しんでいるのであれば、ケトジェニックダイエットや栄養学的アプローチについてもっと調べてみることをおすすめします。
薬があなたの治療においてとても重要な役割を果たすことは理解しています。
しかし、あなたの脳を変えることができるもっとも強力な方法は食事だと私は信じています。
脳内化学物質の大元は食べ物なんですからね。
脳にとって適切な食事をすることは、症状の本当の原因を明らかにする可能性があります。
そうすれば薬の量を減らすことで、気分が良くなり最高の状態を手にできるかもしれません。
いくつかのケースでは、ケトジェニックダイエットが完全に薬を代替しています。
栄養学的な精神医学は、あなたの症状、心身の健康、そしてあなたの未来をよりコントロールする力を与えてくれます。
 
補足
※1.マイクロバイオーム(microbiome)
体内にある微生物(microbe)の集合体をさし、健康だけではなく精神状態にも影響する。
腸内のマイクロバイオームを腸内フローラや細菌叢という。
 
※2.微量栄養素(micronutires)
2つある栄養素のうち、微量であっても人体の発達や機能を維持するのに必要なもの。
ビタミンやミネラルなど。
(タンパク質や脂肪は多量栄養素)
 
※3.ケトジェニックダイエット(Ketogenic diet)
低炭水化物、高脂質を中心とした食事を実践するダイエット。
低糖質によって脂質代謝の機能を活性化させることを目指す。
 
※4.統合失調感情障害(Schizoaffective disorder)
統合失調症に加えて明らかな躁病やうつ病などの気分障害が見られる精神疾患
 
※5.侵入思考(intrusive thought)
本人が望んでいなくとも頭のなかに現れる、不安や恐怖、不快感を与える強迫的な考えや妄想。
攻撃思考や性的思考があり、様々な精神疾患において見られる症状。
 
※6.気分エピソード(mood episode)
DSM-Ⅴで使用されている双極性障害を構成する病相の呼び名。
「大うつ病エピソード」や「躁病エピソード」などがあり、これらを指標として診断をする。
 
※7.PNASS(Positive and Negative Syndrome Scale)
統合失調症患者の状態を30(最良)〜210(最悪)で測定・把握するために用いる尺度。
統合失調症の評価基準としてはもっとも用いられている。
 

個人的な感想

ケトジェニックダイエットはこの記事で初めて知りました。
薬物と違って日常レベルで実践できてコストがあまりないのが良いですね。
ただ、現状はいくつかうまく行った事例があるだけでエビデンスがあるわけではない、ということは念頭に置くべきでしょう。